[800101]白い病棟[240145]

――美咲は、病棟の白い廊下を駆け足で急いでいた。
ナースのスケジュールはハードだ。生命にかかわる問題が最優先とされる病院において、医者と患者の板ばさみになり、自らの時間をすり減らすということは最早日常的なことになっている。その日も、規定の昼休みを半分ほどに削られてしまった美咲は、業務から開放されるやいなや、化粧室へと急いだ。先刻から我慢し続けていた尿意は、限界に近づいている。
しかし、廊下の角に差し掛かった時――注意が散漫になっていた美咲は、出会い頭に人とぶつかり、足を滑らせてしりもちをついてしまった。
「きゃっ！ す、すいません！」
「大丈夫かね、君……!?」
ぶつかった相手は、同じ病棟付けの医師、高柳だった。高柳は心配そうに声をかけ、美咲に手を差し延べる。
「あ……、すいません、高柳先生……」
美咲は高柳の手を取ると、ばつが悪そうな顔をして立ち上がった。しかし、この高柳は、紳士然としているが、ナースの間ではすこぶる評判が悪い。ナース達に、何かにつけてセクハラ的な発言をすることが多いのだ。しかも、発言だけではなく、実際にセクハラをされたナースもいるという噂まである。
「そ、それじゃあ、急いでるので……、すいません、先生」
高柳とあまり関わりたくない美咲は、それだけ言ってすぐにその場から立ち去った――