[800101]暗蜜病棟[240125]

「――ふわー……退屈だな……」
俺は、病院の中庭を散歩しながら、思わず漏れ出たあくびをかみ殺した。さすがに入院生活が面白いものだとは考えてもいなかったが、それにしてもこれほど退屈なものだとは……安易に検査入院などをしてしまったことが、今となっては悔やまれる。
「ま、とりあえず一服するかな……」
そう思って、いつも座ってタバコを吸っているベンチの前まで来たときのことだ。俺の目に意外な光景が飛び込んできた。ベンチにはすでに先客がいたのだ。先客は若い女性の患者だった。年寄りばかりのこの病院では、その存在自体がすでに珍しい。
他の患者と同じ灰色の病衣に身を包んだその子は、目を閉じてなにやら考え事をしているように見える。陰気くさい病衣でも、若い女の子が着るとそれなりに魅力的に見えるから不思議なものだ。患者らしく化粧っ気のない容貌にも、街でみるような普通の女の子よりも妙に色気を感じてしまう。
俺は立ち止まってしばらく考え込んでいたが、意を決してその子に話しかけてみることにした。